VBA 圏での CDP 制御 ― 3プロジェクト比較
Puppeteer / Playwright との比較では「言語の壁を越えて同じ答えに辿り着いた」という話をしました。このコーナーはその逆で、同じ VBA という土俵の上で、同じ CDP を相手にした3つのプロジェクトが、どこで同じ答えに至り、どこで道を分けたかを追います。
比較対象
| 作者 | 位置づけ | |
|---|---|---|
| StarterWebScrapingKit | Eschamali / longvh211 / Daniel Polak | Excel ブック1つで完結する統合スターターキット |
| VBAChromeDevProtocol | PerditionC | CDP 全ドメインを自動生成で網羅した低レイヤーラッパー |
| vba-cdp-webdriver | 24000 / kabkabkab 系 | Selenium 風 API を持つ軽量な派生版 |
README の自己紹介からして性格が違います。VBAChromeDevProtocol は「a VBA version of Puppeteer/Selenium」と名乗りつつ、こう書いています。
Note: if you can use Puppeteer, Playright, Selenium, or some other tool - then use it! But if you can only use VBA, then this is meant to provide a means to automate Chrome or Edge based browsers.
「VBA しか使えないなら」という前置きは、3者に共通する出発点でもあります。
系譜 ―― 源流は1つではない
「StarterWebScrapingKit は他2つの美味しいところを融合した」と言いたくなるところですが、調べると融合というより血縁でした。しかも源流は2つあります。
- 源流A は ChrisK23 氏の CodeProject 記事。VBAChromeDevProtocol の README にも
clsCDP derived from clsEdgeと明記されています。ここから Pipe 通信の系統が伸びます - 源流B は 24000 氏(kabkabkab)の 2022 年の作品。こちらは ChrisK23 氏への言及が一切なく、WebSocket 前提で独立に生まれた系統です
- StarterWebScrapingKit は、Pipe 側(longvh211 氏経由で源流A)と WebSocket 側(源流B)の両方の血を引くハイブリッド
つまり VBAChromeDevProtocol は直接の親ではなく、同じ原典から分岐した従兄弟にあたります。
血縁の物的証拠 ―― 同じ名前の関数
系譜の話は、ソースを並べると一目瞭然です。VBAChromeDevProtocol と StarterWebScrapingKit には、同じ名前・同じコメントの関数が今も残っています。
' VBAChromeDevProtocol / clsCDP.cls:63
' CDP messages received from chrome are null-terminated
' It seemed to me you cant search for vbnull in a string
' in vba. Thats why i re-implemented the search function
Private Function searchNull() As Long
For i = 1 To lngBufferLength
If Mid(strBuffer, i, 1) = vbNullChar Then
searchNull = i
Exit Function
End If
Next i
End Function' StarterWebScrapingKit / CDPCore.cls
'------------------------------------------------------------
' CDP messages received from chrome are null-terminated
' Updated: 25/10/25: Daniel Polak - new faster version
'------------------------------------------------------------
Private Function searchNull(checkString As String, StartPos As Long) As Long
lngPos = InStr(StartPos, checkString, vbNullChar, vbBinaryCompare)' CDP messages received from chrome are null-terminated というコメントの1行が完全に一致しています。原典から受け継がれたものが、片方では「VBA では vbNullChar を検索できないと思ったので自分で書き直した」という当時の判断のまま残り、もう片方では InStr に置き換えられて日付入りの更新履歴が足されている。
この2行の差が、このコーナー全体の縮図です。出発点は同じで、その後どこまで手を入れ続けたかだけが違う。
なぜ InStr で良かったのか
元コメントの「検索できないと思った」は誤解で、InStr に vbBinaryCompare を指定すれば vbNullChar は普通に見つかります。1文字ずつ Mid で回す実装はネイティブ関数1回に置き換えられ、しかもその修正はコア比較のバッファ管理の話にそのまま繋がっています。
独立に同じ道を辿った例 ―― Pipe が先、WebSocket が後
もうひとつ面白い一致があります。両プロジェクトとも 「Pipe が本流、WebSocket は後付け」 という同じ順番で進化しました。
VBAChromeDevProtocol / README.md Primarily connects directly to browser using ... pipes when started, however, now also has basic support for connecting to browser through standard websocket interface
StarterWebScrapingKit / README-jp.mdV2.3.0より、すでに起動している Edge や Chrome などの既存ブラウザセッションに Excel からアタッチできる「WebSocket(Port)ルート」が正式に解禁されました。
これは真似ではなく、技術的な必然です。Pipe は --remote-debugging-pipe で自分がブラウザを起動するときにしか使えません。一方で「すでにログイン済みのブラウザに後から乗りたい」という要求は、Pipe では原理的に不可能で --remote-debugging-port 経由の WebSocket しか道がない。Pipe で作り始めた道具は、実用を重ねると必ずこの壁にぶつかります。
対照的に、源流Bから生まれた vba-cdp-webdriver は最初から WebSocket 一本です。中核クラスの名前がそのまま a1_WebSocketCommunicator.cls であることに表れています。
このコーナーで扱う内容
| ページ | 扱う内容 |
|---|---|
| イベント処理と拡張性 | 登録制コールバック / Select Case 固定 / RaiseEvent の3方式 |
| マルチタブとセッション管理 | sessionId 多重化・再接続コスト・非同期実行・接続エンドポイントの選択 |
| クラス構成とコード生成 | 3つの異なる分割軸と、236ファイルの自動生成という別解 |
| 使い分けと、分かれ道 | 用途別の選び方と、3者を分けたもの |
先に結論
総合力では StarterWebScrapingKit が抜けていますが、全部門で1位ではありません。単体タブだけで手早く済ませたいなら vba-cdp-webdriver が最短で、生の CDP コマンドを直接叩きたいなら VBAChromeDevProtocol の型付きドメイン層が最強です。詳しくは使い分けのページをご覧ください。
関連
- Puppeteer / Playwright とのコアロジック比較 — 同じ比較を Node 勢に対して行ったもの
- アーキテクチャ — このキット側のクラス構成
- 設計思想 — なぜコアに全リソースを振ったのか

